当院の診療は「一歯入魂」をモットーにしております。患者さんの一本一本の歯の治療を時間はかかるかもしれませんが、丁寧に確実に行うことを重視しております。一本の歯の治療を確実に行うにはある一定の工程・作業量(精度)が必要です。ある程度熟練することによって治療スピードは上がりますが、工程・作業量(精度)を落とさずに早く治療終了を迎えるには限界があります。
このことは患者さんご自身のお仕事に当てはめていただければより理解されやすいのでないかと思われます。その限界をこえての早期の納期を要求されれば、工程・作業量(精度)を少なくするしか方法はなくなります。そのような治療を、患者さんの多くはきっと望まないでしょう。
一本単位を別々に診るのではなく、お口全体の歯のバランスのなかの一本として診ていきます。
たとえば患者さんがある歯の痛みを訴えてきたとしましょう。 多くの場合、その歯だけでなく、他の歯の悪い状況を改善しなければその歯にも悪影響を及ぼす場合があります。 また、その歯を支えている歯茎(歯周組織)に問題がある場合、もしくは悪習癖(歯軋り、食いしばりなど)がある場合などにはそちらの対処も考えてから痛みのある歯の治療をしないと長期の安定は図れません。 痛みがある場合、患者さんは痛みのある歯にのみ注意をとられがちですが、 ご自分のお口のなかで、どんなことが起こっているかの全体像を、正確に把握されているかたはそう多くは無いようです。 とは言っても、患者さんがご自分での判断できる材料はとても少ないので、それも仕方がないことと考えます。
患者さんが自らお口の中の異常に気付き、判断できる材料としては、
・痛いか、痛くないか。
・食べ物が詰まる。
・口臭がする。歯茎から血が出る。歯がぐらぐらする。
・比較的前歯の、しかも鏡で見える範囲で少し黒くなっているところがある。
・歯茎がはれた。
など以上のような症状があげられると思います。
しかも、たったこれだけの症状からご自身のお口全体の状況を把握しろといってもムリな話です。たいていの患者さんは、その問題がある歯のみに関心がいき、他はなんら問題がないと思っていらっしゃる場合が多く見受けられます。 しかしそれは氷山の一角の場合が多いのです。 今はなんら自覚症状がありませんが、水面下で静かに進行している虫歯、歯周病のなんと多いことか・・・。
しかしそういった場合でも、いろいろな検査結果や過去の例を患者さんに丁寧に反復して説明をすることで、「患者さんが今おかれているお口の状況」を正確に理解できるようになって来ることが多いのです。
当院ではそのつど、そのときの患者さんのお口の状況や、患者さん自身がおかれた環境に合わせた最善の方法を提案し相談していきたいと思います。 何通りかの治療方法の中からの選択を患者さんにしていただくことがありますが、 これはそれぞれの治療方法にはメリットと少々のデメリットがあるからです。 他の物事同様に医療にも100%がありえない以上リスク説明がついて回るのは仕方がないと考えます。
話は変わりますが、たまに「先生にお任せします」と言う言葉をいただくこともあります。大変ありがたいお言葉で、そんなに信頼していただけているのかと思うことが多いです。 一方、ごくわずかですが、中にはご自身のお口の状況にまったく関心を失っていらっしゃる場合もあり、歯の清掃などでの協力が得られにくい場合があります。少なくともご自身のお口なのですから、当院でのアドバイスを参考に患者さん自身が御自分で治療していかなければならないこともあるのです。(といっても歯の清掃や、生活習慣の改善がおもになりますが) 100パーセント医者任せ(患者さんご自身の改善努力はほとんどなし)では治療は成り立ちません。感覚的に言えば30から40パーセントは患者さんの生活習慣や清掃習慣の改善の協力が必要といえるでしょう。また定期的なメインテナンスも重要です。